ビタミンDは、日光を浴びることによって皮膚で合成される特徴があるビタミンです。感染症の流行や猛暑などの理由により、外出が減り屋内で過ごす時間が増えると、同時にビタミンDが不足してしまう可能性があるかもしれません。今回は、そんなビタミンDについてご紹介致します。
ビタミンDとは
ビタミンDは腸管からのカルシウム吸収を助け、カラダ作りをサポートするビタミンです。その中にも種類があり、ビタミンD2〜D7の6種類があります。ビタミンD1は発見された後の研究で不純物であったことがわかったため、存在しません。
人のカラダにとって重要なビタミンDはD2とD3の2つです。キノコ類に含まれるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と、魚肉及び魚類肝臓に含まれるビタミンD3(コレカルシフェロール)が、私たち人間のカラダには必要不可欠な栄養素です。
ビタミンは13種類あり、水に溶けやすい水溶性ビタミンと、油に溶けやすい脂溶性ビタミンに分けられます。ビタミンDは、脂溶性ビタミンに分類されます。よって過剰に摂取してしまった場合は、過剰分を排泄することができず、カラダに蓄積してしまうリスクがあります。それによる健康障害が否定できないため、注意が必要です。
そして、ビタミンDはカラダに供給する方法が2つあることが特徴的です。1つ目は、その他の栄養素と同じく食品から摂取することで、2つ目は、日光に当たることです。
ビタミンDのはたらき
ビタミンDはカルシウムのバランスを整えるのを手伝ったり、骨の健康を保つのに働いています。また、免疫力アップ効果や発がん抑制や糖尿病の予防の効果があると考えられます。
- カルシウムとリンの吸収促進
- 骨の形成と成長促進
- 遺伝子の働きを調節
- 筋肉を動かすための神経伝達
- 細胞の成長と分化
- 免疫の正常な働き
- 糖尿病予防(インスリン分泌)
- 発がんの抑制
日光を浴びることで生成されるビタミンD
① 人間の皮膚には、プロビタミンD3(7─デヒドロコレステロール、プロカルシフェロール)という物質がコレステロール生合成過程の中間体として存在しています。
② 日光の紫外線により、プレビタミンD3(プレカルシフェロール)となります。
③ 体温による熱異性化によりビタミンD3(カルシフェロール)が生成します。つまり、体温の熱でプレビタミンD3がビタミンD3になるということです。
【参考引用】日経xwoman
IU(効力の単位)について
それでは、どのくらい日光に当たるとどのくらいのビタミンDができるのでしょうか?
例えば、東京都内で夏に直射日光を30分〜40分ほど浴びると、700~800IUのビタミンDが体内につくられるといわれています(肌の露出度10%)。
国際単位(IU,アイユー:International Unit)は脂溶性ビタミンやホルモン、酵素、薬物などの活性を示す単位であり、一定の生物学的効果を発揮できる量が国際的な同意の上、物質ごとに決められています。
アメリカなどでは脂溶性ビタミンの国際単位表示が定められていますが、日本では重量単位で示すことが求められており近年は国際単位よりも重量単位(μg)で表すことが主流のようです。
特に脂溶性ビタミンは、同じ栄養素名であっても分子構造が異なる複数の物質が存在するため、体内での効力を数値で表す国際単位は、サプリメントの効力を判断する際には有用であると考えられ(IU,アイユー:International Unit)が用いられていたそうです。
IU(効力の単位)と(μg)単位の両者間で下表のように換算することも可能です。ビタミンDは1μg=40IUです。
栄養素 | IU→mgまたはμg | mgまたはμg→IU |
ビタミンA (レチノール) | (IU)×0.3 =(μg) | (μg)×3.33=(IU) |
βカロテン | (IU)×0.6 =(μg) | (μg)×1.67=(IU) |
ビタミンD | (IU)×0.025=(μg) | (μg)×40 =(IU) |
ビタミンE (dl-αトコフェロール) | (IU)×0.45 =(mg) | (mg)×2.22 =(IU) |
ビタミンE (d-αトコフェロール) | (IU)×0.67 =(mg) | (mg)×1.49 =(IU) |
よって、東京都内で夏に直射日光を30分〜40分ほど浴びると、17.5μg〜20μgのビタミンDが体内につくられるといわれています(肌の露出度10%)。
【参考引用】USDA National Institute of Health Office of Dietary Supplements
どのくらい日光に当たると良いのか
季節や在地の緯度と日光(紫外線)の関係性
紫外線は季節によって届く量が違います。その結果、季節によって体内でつくられるビタミンD量も違ってきます。
北半球の緯度の高い地域では、冬季にはオゾン層で紫外線が吸収されてしまいます。そのため、紫外線の量が少なくなります。
場所や季節によって、同じ時間だけ日光を浴びても皮膚でつくられるビタミンD3は異なってくることになります。
観測つくば | 1月 | 2月 | 3月 | 4月 | 5月 | 6月 | 7月 | 8月 | 9月 | 10月 | 11月 | 12月 | 年平均値 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
参照値 (1994-2008年) | 5.37 | 8.11 | 11.64 | 16.36 | 19.63 | 19.83 | 23.56 | 23.14 | 16.51 | 11.01 | 6.72 | 4.80 | 13.89 |
標準偏差 (1994-2008年) | 0.44 | 0.91 | 0.84 | 1.35 | 1.33 | 2.24 | 4.25 | 2.73 | 1.44 | 0.87 | 0.47 | 0.38 | 0.82 |
2021年 | 5.91 | 10.01 | 13.57 | 19.88 | 20.32 | 23.68 | 24.11 | 24.91 | 16.08 | 12.26 | 7.59 | 5.17 | 15.29 |
2020年 | 4.95 | 8.65 | 11.92 | 17.52 | 22.07 | 23.14 | 17.99 | 31.75 | 17.25 | 10.54 | 7.48 | 5.02 | 14.86 |
気象庁から発表されている茨城県つくば市の紫外線UV-B観測値です。7月と8月が圧倒的に多く、冬は夏の4分の1~5分の1程度しか届いていないことがわかります。
※参照値は世界平均のオゾン量の減少傾向が止まり、オゾン量が少ない状態で安定していた期間(1994~2008年)の平均的なUV-B量の状況を示します。
【参考引用】気象庁HP
紫外線の照射は、緯度 や季節による影響を大きく受けます。国内3地域(札幌・つくば・那覇)において、顔と両手を露出 した状況で、5.5 μg のビタミンD3を産生するのに必要な日照への曝露時間を求めた研究報告によると、那覇では冬季でもビタミンD産生が期待できました。しかし、12 月の札幌では正午前後以外ではほとんど期待できず、晴天日の正午前後でも76分を要するという結果が出たそうです。
これは晴天日に限定した算出で、晴天日に限定しなかった場合、冬季の札幌では、 最大限に見積もっても、5 μg 程度の産生と考えられる研究結果だそうです。
ビタミンDの摂取量についての目安
1日のビタミンDの目安量は、年齢や性別で異なります。また、多量摂取を続けると、高カルシウム血症、腎障害などの健康障害が起こる可能性があるため、耐容上限量が設定されています。日本人の食事摂取基準で示されている量は以下の通りです。
【参考引用】日本人の食事摂取基準(2020年版)
日本人の食事摂取基準で示されている目安量は、適度に日光に当たり、カラダでビタミンDが作られることを考慮されています。日照時間によって、ビタミンDの合成量は異なるため、住んでいる地域や季節によって必ずしも一定ではありません。
紫外線量の少ない冬には、食品からのビタミンD摂取をより意識する必要があります。
ビタミンDを多く含む食品
ビタミンDを多く含む食品は限られています。比較的含まれている量が多い食品は、魚介類やきのこ類です。卵、肉類からも摂取できますが、含まれている量は魚介類に比べると多くはありません。
ビタミンD : 含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりμg |
1 | あらげきくらげ(乾) | 130.0 |
2 | 塩辛 | 120.0 |
3 | あんこうの肝(生) | 110.0 |
4 | きくらげ(乾) | 85.0 |
5 | うまづらはぎ/味付け開き干し | 69.0 |
6 | しらす干し | 61.0 |
7 | いかなご(煮干し) | 54.0 |
8 | まいわし/みりん干し | 53.0 |
9 | たたみいわし | 50.0 |
9 | まいわし/丸干し | 50.0 |
9 | にしん/身欠きにしん | 50.0 |
- 指定した成分量の同値があるため、指定した数より多くの食品を表示しています
- 成分量の単位 μg は100万分の1グラムを表します
干ししいたけと生のしいたけを比べると、干ししいたけの方がビタミンDは多いことが分かります。しいたけは、日光に当てるとビタミンDが増えるといわれています。時間に余裕があれば、生のしいたけを調理前に天日干しにするのもおすすめです。
また、卵のビタミンDは、卵白には含まれず、卵黄にのみ含まれるのが特徴です。
前述の日本人の食事摂取基準を見ると、20歳以上の男女のビタミンDの目安量は8.5μg/日です。鮭やサンマを1人分食べることで、1日の目安量をおおよそ満たすことができます。
【参考引用】食品成分データベース
【参考引用】ビタミンDを多く含む食品
ビタミンDの不足と過剰摂取
ビタミンDは、腸管や肝臓でカルシウムとリンの吸収を促進するはたらきをします。骨は、コラーゲンやたんぱく質の枠組みの上にリン酸カルシウムが沈着(石灰化)して形成され、ビタミンD が欠乏すると、石灰化障害のリスクが生じてきます。
小児ではくる病、成人では骨軟化症が起こる可能性があります。一方、軽度の不足であっても、 腸管からのカルシウム吸収の低下と腎臓でのカルシウム再吸収が低下し、低カルシウム血症となることがあります。これに伴い二次性副甲状腺機能亢進症が起こる可能性があります。骨を壊す働きの骨吸収が亢進し、骨粗鬆症及び骨折を起こしやすいリスクとなります。
ビタミンDの過剰摂取により、高カルシウム血症、腎臓の機能障害、軟部組織の石灰化な どが起こる可能性があります。
まとめ
ビタミンDにはキノコ類に含まれるビタミンD2(エルゴカルシフェロール)と、魚肉及び魚類肝臓に含まれるビタミンD3(コレカルシフェロール)があります。D3の効力の方が高いという文献も見られます。
そして、ビタミンDはカラダに供給する方法が2つあることが特徴的です。『カラダは食べたものでできている』という言葉の通り、食事から摂取することと日光に当たることです。
ビタミンDを多く含む食品を見ると、魚やキクラゲなどのきのこ類から摂取する割合が多いことが分かると思います。そのため、魚やきのこを食べる頻度が少なくなると、ビタミンDの摂取量が不足する傾向があります。1日でビタミンDの目安量を満たすことも重要ですが、1日で満たすことができない日もあるかもしれません。
その点に関しては、水溶性ビタミンと多少異なる考え方で良いと思います。ビタミンDは、脂溶性ビタミンで体外に排泄されにくい特徴もあります。数日間を通して満たせているかの確認をすることが重要だと思います。
また、外出の頻度が少なくなると、皮膚で作られるビタミンD量が少なくなります。実際の日光浴時間については、1日あたり夏なら木陰で30分程度、冬なら1時間程度を目安にすると良いと思います。
ビタミンDは不足による影響もありますが、摂りすぎると過剰症が起こる可能性もあります。サプリメントの使用にはより注意が必要です。バランスの良い食事を心がけながら、効率よくビタミンDを摂取することが大切です。
それでも前述で述べたような、気になる不調や症状が改善しない場合は、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。
【参考引用】日光浴はどのくらい必要?