今回は、皮膚炎や三大栄養素の代謝に関わるビオチン(ビタミンB7)について解説していきます。
ビオチンとは
ビオチンはビタミンB群に属する栄養素です。オランダの研究者ケーグルが、酵母の増殖に必要な因子【ビオチン】として発見しました。【ビタミンB7】とも言われています。また、皮膚の炎症を防止する因子であることが発見され【ビタミンH】ともいわれることがあります。現在は、最初に発見されたときのビオチンという名前が一般的です。水やアルコールに溶けやすく、水溶性ビタミンに分類されます。
ビオチンの吸収と働き
ビオチンの吸収と働きについて解説していきます。
消化と吸収【ビオチンはたんぱく質と結合している】
ビオチンは、生体内では、ほとんどがたんぱく質と結合した状態で存在します。消化の過程で膵臓から分泌されるビオチニダーゼがたんぱく質を分解すると、ビオチンが遊離し、主に小腸の空腸から吸収されます。
肝臓でビオチニダーゼと結合して細胞内に取り込まれますが、細胞内で再び引き離しが行なわれ、4種類あるカルボキシラーゼの補酵素として作用するのが、ビオチンの一連の代謝の流れです。
ビオチンの働き
カラダの中で吸収されたビオチンは、糖代謝(糖新生)に関与する①ピルビン酸カルボキシラーゼ、脂肪酸代謝に関与する②アセチルCoAカルボキシラーゼや③プロピオニルCoAカルボキシラーゼ、アミノ酸の代謝に関与する④3-メチルクロトノイルCoAカルボキシラーゼの補酵素として、エネルギーをつくりだす手助けをしています。また、皮膚や粘膜の維持、爪や髪の健康に深く関わっているビタミンで、不足するとアトピー性皮膚炎や脱毛などの皮膚症状や食欲不振、うつなどの症状が現れます。
【参考引用】NHK出版 健やかな毎日のための栄養大全
[監修] 上西 一弘 [監修] 藤井 義晴 [監修] 吉田 宗弘
糖新生とビオチン
糖新生とは乳酸やピルビン酸、アミノ酸、グリセロールなどを材料として、糖質を新しく作り出す代謝のことです。 この中でも特に材料として使われる割合が高いのが、筋肉から取り出されたアミノ酸です。 つまり糖新生が起こると、筋肉が分解されて減ってしまうということになります。
ピルビン酸カルボキシラーゼは、ピルビン酸から、肝臓や腎臓での糖新生に必須のオキサロ酢酸を作り出す酵素です。 ビオチンはこの酵素の働きの補酵素です。そのため、ビオチンが欠乏しオキサロ酢酸が十分に作られないと、糖代謝が正常に行われず、乳酸が蓄積して血液が酸性になる乳酸アシドーシスになります。
ビオチンの1日の摂取基準
日本人の食事摂取基準(2023年版)では、ビオチンの一日の摂取の目安量を18歳以上の男女とも50㎍としています。水溶性ビタミンであり、過剰に摂取しても尿として排出されやすく、過剰摂取による健康被害が報告されていないことから、耐容上限量は設定されていません。
性別 | 男性 | 女性 |
---|---|---|
年齢等 | 目安量(㎍) | 目安量(㎍) |
0~5(月) | 4 | 4 |
6~11(月) | 5 | 5 |
1~2(歳) | 20 | 20 |
3~5(歳) | 20 | 20 |
6~7(歳) | 30 | 30 |
8~9(歳) | 30 | 30 |
10~11(歳) | 40 | 40 |
12~14(歳) | 50 | 50 |
15~17(歳) | 50 | 50 |
18~29(歳) | 50 | 50 |
30~49(歳) | 50 | 50 |
50~64(歳) | 50 | 50 |
65~74(歳) | 50 | 50 |
75以上(歳) | 50 | 50 |
妊婦 | 50 | |
授乳婦 | 50 |
- 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量であり、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。
- 摂取基準量の単位㎍は100万分の1グラムを表します。
【参考引用】「日本食品標準成分表(八訂)増補2023年」
ビオチンが不足するとどうなるか
ビオチンは、前述のとおり糖の代謝に必要なピルビン酸カルボキシラーゼの補酵素です。ピルビン酸カルボキシラーゼは、ピルビン酸から肝臓や腎臓での糖新生に必須のオキサロ酢酸を作り出す酵素です。そのため、ビオチンが欠乏しオキサロ酢酸が十分に作られないと、糖代謝が正常に行われず、乳酸が蓄積して血液が酸性になる乳酸アシドーシスになります。
また、ビオチンが不足すると、リウマチ、シェーグレン症候群、クローン病などの免疫不全症のほか、インスリンの分泌能が低下し1型および2型の糖尿病のリスクが高まることが知られています。その他、乾いた鱗状の皮膚炎、萎縮性舌炎、食欲不振、むかつき、吐き気、憂鬱感、顔面蒼白、性感異常、前胸部の痛みなど、さまざまな症状が現れます。
また、多量の生卵を摂取した場合には、卵白中のアビジンという物質がビオチンと結合して吸収を妨げ、欠乏することがあります。しかし、卵を加熱することにより、アビジンが変性し、その影響を抑えることができますので、生卵を大量に摂取しない限り欠乏の心配はいらないようです。
ビオチンは、様々な食品に含まれているうえに、腸内細菌によっても合成されるので、通常の食生活では欠乏することはないと考えられます。しかし、遺伝的に体内でビオチンを再生して再利用するための酵素や、ビオチンを活性化するための酵素が欠損している場合は、欠乏症状が現れます。
前述の通り、反対にビオチンの過剰摂取による健康被害は報告されていません。
ビオチンを多く含む食品
ビオチンは、イラストにもある通り様々な食材に含まれています。特に、きのこ類、肉類、種実類、卵類、魚介類に多く含まれています。ビオチンを多く含む食品のTOP10をご紹介します。
ビオチン : 含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりμg |
1 | パン酵母/(乾燥) | 310.0 |
2 | まいたけ(乾) | 240.0 |
3 | にわとり 肝臓 レバー(生) | 230.0 |
4 | からし(粉) | 160.0 |
5 | ぶた スモークレバー | 130.0 |
6 | らっかせい 大粒種 (いり) | 110.0 |
7 | ぶた じん臓 (生) | 100.0 |
8 | パン酵母(圧搾) | 99.0 |
9 | らっかせい バターピーナッツ | 96.0 |
10 | らっかせい 大粒種 (乾) | 92.0 |
10 | らっかせい 小粒種 (乾) | 92.0 |
- 指定した成分量の同値があるため、指定した数より多くの食品を表示しています
- 成分量の単位 μg は100万分の1グラムを表します
【参考引用】文部科学省 食品成分データベース
まとめ
ビオチンはエネルギー源となる三大栄養素から糖質、脂質、たんぱく質(アミノ酸)からエネルギーをつくり出すのに欠かせない栄養素です。そのためビオチンは血糖値が下がる空腹時や、カラダの中のグルコースやアミノ酸が余ったときに必要量が高まります。
その他にも皮膚の炎症を防止する因子を持っており、抗炎症物質を生成しアレルギー症状を緩和する働きが代表的です。
様々な食品に含まれているため、普段からあまり意識して摂取することはありませんが、特に皮膚の健康を維持するために欠かせない栄養素といえます。ときにはビオチンを意識して食習慣を見直し栄養状態をと整えてみましょう。『カラダは食べたものでできています。』
それでも前述で述べたような、気になる不調や症状が改善しない場合は、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。