葉酸は、カラダの中で合成されない必須栄養素です。そのため、食べ物から葉酸を必要量摂らないといけない栄養素です。ビタミンB12と一緒に赤血球を作るので「造血のビタミン」ともいわれています。 さらに、DNAやRNAなどの核酸やたんぱく質の合成を促進し、細胞の生産や再生を助けます。そんな葉酸について詳しくご紹介いたします。
葉酸とは
葉酸は、ビタミン B 群に分類され、水溶性ビタミンの 1つです。カラダの中で補酵素として働きます。1941年にホウレンソウの葉から発見されたことが葉酸の由来です。ラテン語で「葉」を意味する『folium』をもとに、葉酸(folic acid)と名付けられました。
葉酸は小腸から吸収され、貧血を予防する物質としても発見されたことから「ビタミン M」やビタミン B 群と考えられていたものの中で 9 番目に見つかったことから「ビタミンB9」、物質名から「プテロイルグルタミン酸」と表記されることもあります。
食べ物に含まれる葉酸は、「ポリグルタミン酸型」といって複数のグルタミン酸が結合した形で存在しています。
サプリメントなどに配合されている葉酸は、「モノグルタミン酸型」といって1つのグルタミン酸が結合した形として合成された「プテロイル・モノグルタミン酸」(略してPteGlu(1)プテグルワン)などと表記される事もあります。
葉酸は、カラダの中で合成されない必須栄養素です。そのため、食べ物から葉酸を必要量摂らないと不足し、やがて欠乏状態になってしまいます。葉酸欠乏といえば、赤血球の数が足りないために起こる「貧血」で、妊婦さんに起こりやすい貧血です。ビタミンB12が欠乏することで生じる「巨赤芽球性貧血」と同じ状態になります。そのため、妊婦さんの貧血はビタミンB12のみでは治癒しないとも言われています。
葉酸の働き
遺伝子情報を伝え、たんぱく質の合成に関わる
葉酸のカラダの中での働きは、たんぱく質の合成開始や、一部のアミノ酸代謝などに関わっており、多岐にわたります。また、全身のすべての細胞に存在している核酸の合成にも、葉酸が必要です。核酸とは、DNA(デオキシリボ核酸)やRNA(リボ核酸)の総称で、主に遺伝子情報を伝え、たんぱく質の合成に関わる働きを担っています。
そのため、葉酸が不足すると核酸の合成に支障が生じてしまい、全身の約270種類あるすべての種類の細胞の分裂や分化に影響が現れます。とくに、分裂や分化が活発な細胞ほど、その影響を大きく受けやすいと考えられます。
妊婦さんが葉酸を意識的に摂取しなくてはならない理由の一つは、葉酸の働きは胎児(お腹の中の赤ちゃん)の細胞の発達していく過程で必要な栄養素となるからです。
他のビタミンB群と一緒に働く
葉酸は、細胞の分裂・複製や分化の根本にかかわる核酸生合成とたんぱく質の合成開始に関わる重要な働きをしています。そして、それらの葉酸の働きは同じビタミンB群と協力して発揮されるという点です。葉酸の働きを十分に生かすために、他のビタミンB群の摂取量にも気を付けることでより本来の働きを引き立てる事ができます。ビタミンB群の中でも特に、ナイアシン(ビタミンB3)やビタミンB12は、ビタミン剤やサプリメント型食品に使用されている葉酸を吸収されやすく、働きやすい状態に変換するために必要です。
葉酸が不足すると
葉酸は水溶性ビタミンであり、体の中に貯めておくことができないので、不足・欠乏しないように継続して摂取することが大切です。
葉酸が不足・欠乏するリスクのある人とは、まず、当然ですが葉酸の摂取量が少ない人が挙げられます。その他にも、摂取した葉酸の吸収が低下してしまっている人や、妊婦さんのように葉酸の必要量が多い状態にある人も、不足・欠乏するリスクがあります。
胎児(お腹の中の赤ちゃん)への影響
葉酸が不足・欠乏した場合の大きな問題として、妊娠中の場合に、胎児(お腹の赤ちゃん)への影響が挙げられます。赤ちゃんに何かしらの異常が発生してしまうリスクを下げるためにも、妊娠前から計画的に葉酸が不足しないように心がけることが大切です。
成人への影響
葉酸が不足・欠乏してくると、貧血が起きやすくなったり、神経症状、例えば足のしびれや腱反射の消失、舌のしびれや味覚異常などが現れやすくなります。
貧血というと、立ちくらみなどがその症状だと思われるかもしれませんが、それは「脳貧血」と呼ばれる症状で、血圧の調節異常などで生じるものです。一方、葉酸の不足・欠乏などで起こる貧血とは、血液中の酸素を運搬するヘモグロビンが少なくなっている状態のことを指し、息切れや動悸、めまいなどが現れやすくなります。
さらに、葉酸が不足・欠乏していると、動脈硬化が進みやすくなったり、不足していない人に比べて認知機能が低下していたり、うつの度合いが高い人が多いという報告もあります。
参考引用
妊娠する可能性がある・計画している、妊婦さん
お腹の中の赤ちゃんは細胞の分裂・複製や分化が急速に進行しています。葉酸の重要な働きの一つは、細胞の分裂・複製などの分化に関わっていることです。そのため、赤ちゃんができた時点から、お母さんの葉酸依存性の酵素反応系が非常に活発化しています。葉酸補酵素代謝系がスムーズに動かないと、赤ちゃんの神経管閉鎖障害のリスクが上昇しますので積極的にサプリメントなどから葉酸を摂るようにしましょう。
神経管閉鎖障害とは
神経管閉鎖障害とは赤ちゃんの先天性異常の一つです。妊娠が成立した妊娠初期の細胞増殖が盛んな時期に、脳や脊髄などが作られる過程で多く作られるのが神経管です。この時期に神経管がうまく作られないことで起こります。
神経管は通常、妊娠6週あたりで閉鎖が完了します。ところが、先天的に異常がある場合には、葉酸の需要が高まりカラダの中で要求量が異常に高くなります。そこから要求量を満たすことができない場合には、神経管が閉鎖しないことがあり、その場合には二分脊椎のリスクが高くなります。
二分脊椎とは、脊椎(背骨)の形の異常の一種で、脊椎の中にあるべき神経が骨の外に出てしまった状態のことです。胎児の二分脊椎では死産になったり、生まれてきた赤ちゃんの歩行や排尿に障害が生じてしまうことがあります。また神経管閉鎖障害では二分脊椎の他にも、無脳症といって脳の全部または一部に欠損が見られる病気などのリスクも生じます。
葉酸は、妊娠前からの摂取が大切
妊娠6週で赤ちゃんの神経管が閉鎖するということは、受精から妊娠6週までの間の葉酸の摂取が重要ということです。そのため、妊娠する可能性のある女性や、妊娠を計画している女性は、常に葉酸を十分摂るようにしましょう。葉酸をサプリメントなどで摂り始めてから、血液中の葉酸濃度が安定するまでに、約8週間ほどかかるとされています。計画をされれいる方ほど妊娠前からの準備とリスク回避が大切とされています。
葉酸サプリメントからの摂取が必要で効率的
赤ちゃんに神経管閉鎖障害が生じるリスクを抑制するために必要とされる葉酸の量を、一般の食品のみから摂取するのは難しいため、サプリメントの葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)の利用が推奨されています。とくに、先天性異常の一つである神経管閉鎖障害の赤ちゃんを出産したことのある女性は、第二子が神経管閉鎖障害となるリスクが十倍以上に上ると言われており、妊娠前から医師の管理の下で、高用量の葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)の摂取が必要とされます。
食事からの葉酸の栄養素と葉酸サプリメントの違いは、主に消化の過程と葉酸補酵素型に変換されるときにビタミンB12が必要かどうかという点です。
食事からの葉酸は、主として5-メチルH4PteGlu(1)というものに消化され、小腸で吸収されて、血液を介して肝臓などの組織に取り込まれます。その後、体に有効な形に変換されて働きますが、働く形になるにはビタミンB12が必要になります。そのためにビタミンB12も一緒に摂る必要があるのです。
一方、サプリメントや強化食品に含まれている葉酸(PteGlu(1プテグルワン)は、そのまま吸収されてビタミンB12がなくても体の中で働く形になることができます。
以上のように、サプリメントなどに含まれる葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)の方が食事性の葉酸と比べて吸収性においても、代謝性においても優れていると考えられます。
「日本人の食事摂取基準(2023年版)」では、食事性の葉酸の生体利用率(摂取したもののうち体で利用される割合)を50%としています。一方、サプリメントや栄養強化食品に含まれている葉酸(PteGlu(1プテグルワン)の生体利用率は約85%です。この違いが、葉酸の需要がとくに高い妊婦に対して、サプリメント型の葉酸(PteGlu(1プテグルワン)の摂取が推奨される大きな理由の一つです。
なお、日本では推定で年間500~600人が神経管閉鎖障害で生まれてきていると推計されています。分かりやすく出生数を100万人とすると0.05%程度となります。
神経管閉鎖障害の対策
カナダなどでは、コーンフレークなどシリアル製品の食品に葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)を添加することを義務付けたりする政策も行われています。シリアルを習慣的に食用することが一般的なカナダでは,1日量0.1~0.2 mgの葉酸を摂取することになります。シリアルへの葉酸の添加は1998年の1月より開始され,人口のほとんどが1日量0.2 mgの葉酸を摂取しています。
このように、神経管閉鎖障害を対策とした方法で葉酸を用いた国が多くあります。そのような政策を施行してから、神経管閉鎖障害のある赤ちゃんの出産が減少したという報告もあります。日本でも埼玉県坂戸市などの一部の自治体で、同様の取り組みが行われているケースもあるようです。
妊娠中期・後期~授乳中にも葉酸が不足・欠乏しやすい
葉酸の要求量が増すのは、妊娠初期だけではありません。妊娠の成立から胎盤の形成、それに続く妊娠中の全期間を通じて、赤ちゃんの発育のために葉酸の補酵素が必要です。
妊娠中に葉酸の補酵素代謝系がスムーズに働かない場合は、ホモシステインという酸化力の強いアミノ酸の蓄積を引き起こす可能性があります。それによって妊娠高血圧腎症や常位胎盤早期剥離、死産、早産などのリスクを高める可能性が指摘されています。また、産後の授乳期間中も葉酸の必要量が高い状態が続きます。後の授乳中にも、赤ちゃんに葉酸を届けるために、意識的な摂取を心がけましょう。
そして、女性だけでなく男性についても、葉酸の十分な摂取が精子の質や妊娠率の向上に役立つというデータもあるため、ご夫婦で一緒に葉酸を取り入れていくことが大切です。
◆妊娠・分娩時の薬物治療―最新の使い方は? 留意点は?葉酸―どのように用いれば神経管閉鎖障害を予防できるのか 吉田 志朗
参考引用
1日の葉酸の摂取量について
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準」を参考にご紹介いたします。
推奨量は1日240μg、妊婦さんは+240μg
「日本人の食事摂取基準(2020年版)」には、ほとんどの人が充足している栄養素の摂取量として「推奨量」が示されています。葉酸については成人の場合、男性、女性ともに1日あたり240μg。ただし、妊婦さんは+240μgで計480μg、産後の授乳期間中は+100μgで計340μgです。
なお、神経管閉鎖障害の子どもを出産したことのある女性は、第二子が神経管閉鎖障害となるリスクが十倍以上と言われているため、妊娠前から医師の管理下で、妊娠11週末まで1日に4~5mg(4,000~5,000μg)をサプリメントなどの葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)として摂取することが検討されます。
耐容上限量は900~1,000μg
「日本人の食事摂取基準(2023年版)」には、葉酸について、過剰摂取による健康障害の回避を目的とする「耐容上限量」が示されています。これは、食事から葉酸を習慣的に過剰摂取することによる健康障害はないが、葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)のサプリメントや葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)が強化された食品を習慣的に過剰に摂取すれば健康障害を引き起こし得ることも考えられるとして、「葉酸(PteGlu(1)プテグルワン)」の耐容上限量を示しています。その量は、30~64歳は1日あたり1,000μg、それ以外の年齢層の成人は900μgです。
葉酸が多く含まれる食べ物
葉酸は、ほうれん草の葉から見つかった栄養素で、ほうれん草のような濃い緑色野菜に多く含まれています。ほうれんそうの葉(生)には100gあたり210μg、ブロッコリーの花序(生)には100gあたり220μg、枝豆(生)には100gあたり320μg含まれています。
葉酸 : 含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりμg |
1 | 酵母/パン酵母/(乾燥) | 3800 |
2 | 焼きのり | 1900 |
2 | 酵母/パン酵母/(圧搾) | 1900 |
4 | 味付けのり | 1600 |
5 | いわのり/素干し | 1500 |
6 | パセリ(乾) | 1400 |
7 | にわとり/肝臓【レバー】(生) | 1300 |
7 | せん茶 | 1300 |
9 | かわのり/素干し | 1200 |
9 | 抹茶 | 1200 |
9 | あまのり/ほしのり | 1200 |
- 指定した成分量の同値があるため、指定した数より多くの食品を表示しています
- 成分量の単位 μg は100万分の1グラムを表します
◆ 「食品成分データベース」
他の栄養素と一緒に摂ることが重要
葉酸の吸収や代謝の働きには、ビタミンCやビタミンB2・B6・B12、ナイアシン(ビタミンB3)、亜鉛といった微量栄養素が深く関係しています。そのため、葉酸の摂取量だけを気にかけるのではなく、それらの栄養素も同時に摂取することを心がけると、葉酸が体の中でより働きやすくなります。
まとめ
葉酸は、カラダの中で合成されない必須栄養素のため、食べ物から葉酸を必要量摂らないといけません。サプリメントなどに配合されている1つのグルタミン酸が結合した形として合成された「プテロイル・モノグルタミン酸」(PteGlu(1)プテグルワン)の種類の方がより吸収されやすいです。また、その他のビタミンB群と一緒に摂取しましょう。
ビタミンB12と一緒に赤血球を作るので「造血のビタミン」ともいわれています。 さらに、DNAやRNAなどの核酸やたんぱく質の合成を促進し、細胞の生産や再生を助けます。
妊婦さんは、不足した場合のリスクを考慮して葉酸を摂取していきましょう。『赤ちゃんのカラダは、お母さんの食べたものでできています。』食習慣を整えて健康で楽しく過ごしていきましょう。気になる不調や異変に関しては、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。