鉄はFeと表記されます。肉や魚・野菜などに含まれるカラダにとって重要な栄養素です。細菌や植物、動物などあらゆる生き物(乳酸菌以外)に必要であると考えられています。
鉄欠乏症は世界的にもっともよく見られる栄養問題のひとつです。不足している状態はいわゆる『貧血』といわれます。貧血、その他にもうつ病などと関わる重要な状態であることが知られるようになってきました。そんな鉄を解説していきます。
鉄とは
鉄は赤血球の材料になり、全身に酸素を運ぶ役割を担うミネラルです。不足することで貧血を発症します。 体内には3~4gの鉄が存在し、このうちの70~75%は機能鉄と呼ばれ、赤血球中のヘモグロビンや筋肉中のミオグロビンというタンパク質の構成成分となっており、体内に取り込まれた酸素を全身に運ぶ大切な働きがあります。
人は体重60kgの男性で約3g、体重50kgの女性で約2.5gの鉄をからだの中に持っています。そのうち2/3は酸素を運ぶ(ヘモグロビン)に、10%は筋肉(ミオグロビン)に、残りは肝臓、脾臓、骨髄、腸に貯蔵されています。
鉄は人の体にとってとても大切ですので、すぐに取り出せるようにフェリチンという血液成分によって貯蔵されていたり、再利用されるシステムになっています。
鉄の出入りはとても閉鎖的で、摂った食べ物のうち約1mgが吸収されると同時に、尿や便から約1mgの鉄が排泄されるという動きになっています。
鉄の種類
栄養素の鉄には2種類あります。ヘム鉄と非ヘム鉄に分類されます。
- 肉や魚に含まれるものを「ヘム鉄」=吸収率は10〜20%
- ひじきやほうれん草、プルーンなどに含まれるものを「非ヘム鉄」=吸収率は2〜5%
両者では、ヘム鉄の方が圧倒的に吸収率が良いです。貧血対策にはヘム鉄を含む食品を食べましょう。
同じ量の鉄でも、ヘム鉄と非ヘム鉄で吸収が6倍近い差があります。
(J.D.Cook et al., “Iron Metabolism in Man”, Blackwell Scientific Publication, London (1979))
一般社団法人 オーソモレキュラー栄養医学研究所サイトより引用
ヘム鉄と非ヘム鉄の吸収について
鉄は小腸で吸収されます。ヘム鉄はもともと、たんぱく質にくるまれて吸収されやすい形になっているので、比較的すんなりと吸収されます。
一方、非ヘム鉄の吸収率は非常に低く、吸収されるときに活性酸素を出して腸の粘膜を攻撃してしまいます。また、一緒に摂取した成分に簡単に影響されてしまいます。
一般社団法人 オーソモレキュラー栄養医学研究所サイトより引用
鉄の吸収を促進する因子、阻害する因子
鉄の吸収を促進する成分があります。まずは、乳性たんぱく質のカゼインが消化酵素の分解によりできる物質であるCPP(カゼインホスホペプチド)を一緒に摂ると、小腸の下の方でもう一度汲み上げてくれるので、吸収率が上がります。酸っぱいものや辛いものを食べて胃を刺激するのも吸収率を上げるため効果的と言われています。
一方、前述の通り、非ヘム鉄は、一緒に摂取した成分に簡単に影響されてしまいます。紅茶、コーヒー、緑茶に含まれるタンニンは、非ヘム鉄の吸収を妨げるといわれています。しかし、ヘム鉄の場合は気にしなくてよいという意見もあります。
促進因子 (鉄の吸収を助ける) | 阻害因子 (鉄の吸収を妨げる) |
---|---|
CPP、ビタミンC、タンパク質 | タンニン(コーヒー、紅茶、緑茶等)フィチン酸(穀物の外皮、玄米等)食物繊維(おから、大豆、穀物の外皮、海藻類) |
そして、人のカラダは、ある一定の割合でミネラルバランスが保たれています。このミネラルのバランスがとれてこそ健康でいられます。
例えば、鉄だけを大量に摂取すると、亜鉛や銅の吸収が妨げられてしまいます。すると他のミネラルが減る分、利用できる鉄の量が多くなりそうですが、実は逆にその利用が阻害されてしまいます。
また、鉄を運んでくれるたんぱく質(トランスフェリン)に鉄が乗るときには銅が必要(セルロプラスミン)です。亜鉛はヘモグロビンの合成にも関係していますので、これらのミネラルは一緒に摂るのが理想です。
鉄の働き
私たちは呼吸して吸った酸素でエネルギーをたくさん作り出し、毎日生活しています。
鉄は、その酸素を運ぶ『ヘモグロビン』の一部となって酸素を全身に運んでいます。また、筋肉の中にいて『ミオグロビン』血液からの酸素を受け取ったりもしています。
ほかにも、鉄は酵素の一部『チトクローム』としてエネルギー作りに関係したり、薬の代謝に関係したりしています。
鉄【ヘム】+ たんぱく質【グロビン】= ヘモグロビンが酸素を全身に運んでくれています。
血液の色が赤いのは、このヘモグロビンの鉄が酸素と結合したことによって生じる色素なのです。
鉄不足の症状
鉄不足は特異的な症状は乏しいですが、様々な不定愁訴と呼ばれる症状と深く関係しています。
鉄が不足すると以下のような症状が出ます。
- 動悸、めまい、肩こり、頭痛
- 皮膚、爪、髪の毛、粘膜のトラブル
- あざ、歯茎の出血、抜け毛など
- 氷を好んで食べる
また、精神発達にとっても重要な栄養素なので以下のような症状が出ることも考えられます。
- 注意力の低下、イライラ感
- 食欲不振
- 抑うつ感
赤ちゃんとヘム鉄について
生まれたばかりの赤ちゃんは、お母さんから十分な量の鉄をもらって生まれてきます。しかし、その後の急速な成長に伴って出生6ヶ月から24ヶ月の間にお母さんからもらった鉄は尽きてしまいます。赤ちゃんはどんどん大きくなり続けます。しっかりヘム鉄を補給してあげましょう。
未熟な状態で早く生まれてきてしまった赤ちゃんにはまだ体内に十分な鉄がないため、未熟児用のミルクには鉄が加えられています。
女性と鉄不足=鉄欠乏性貧血
初潮を迎えた女性は、尿や汗、便から出てしまう鉄に加え、月経によりさらに多くの鉄が失われることになります。女性が初潮を迎えるころはまだまだ心身ともに成長期ですので、体重1kgの増加につき30mg / 月の鉄が必要です。
思春期(成長期)では、過度な運動汗1リットルにつき、0.5mgの鉄が失われます。バランスのよい食事をしていても約10mg(吸収量は約1mg)の鉄しか摂取できません。この時期にダイエットをしている人はさらに摂取量が少なくなります。
また、成人で妊娠・出産胎児の成長や出産時の母体の回復、母乳栄養を考えると、最低4mgの鉄が必要です。
無理なダイエットをしたりスポーツなどでたくさんの汗をかいたりすると、鉄の供給が間に合わなくなり、貧血になるおそれが高まってしまいます。女性は積極的にヘム鉄を摂りましょう。
心の不調と鉄について(脳の神経伝達物質の流れ)
近年はストレス社会などと言われ、心の不調を訴える方々が増えています。うつ状態は鉄不足でも起こります。
以下の図は、人の心をつくる脳の神経伝達物質の流れです。例えばいちばん右の、幸せホルモンと言われる『セロトニン』の列について見てみます。鉄は『トリプトファン』が『5-HTP』になるときに必要です。ゆえに鉄が不足するとトリプトファンが5-HTPになれないおそれが出ます。そしてセロトニンまでいかない可能性が出てしまうのです。
心の不調を訴える方の中には、もしかしたら鉄が足りない方もいるかもしれません。
一般社団法人 オーソモレキュラー栄養医学研究所サイトより引用
鉄分1日あたりの
- 耐容上限量=健康障害をもたらすリスクがない習慣的な摂取量の上限
- 推奨摂取量=ほとんどの人が必要量を満たす量(目安量)
は、年齢や性別で多少異なっています。
鉄分の摂取基準量について厚生労働省の【日本人の食事摂取基準2020年版】から引用
耐容上限量
鉄分1日あたりの耐容上限量は、以下のようになっています。
年齢 | 男性の耐容上限量(mg) | 女性の耐容上限量(mg) |
1~2歳 | 25 | 20 |
3~5歳 | 25 | 25 |
6~7歳 | 30 | 30 |
8~9歳 | 35 | 35 |
10~11歳 | 35 | 35 |
12~14歳 | 40 | 40 |
15~17歳 | 50 | 40 |
18歳~29歳 | 50 | 40 |
30~49歳 | 55 | 40 |
50~69歳 | 50 | 40 |
70以上 | 50 | 40 |
厚生労働省【日本人の食事摂取基準2020年版】サイトより引用
推奨摂取量
鉄分1日あたりの摂取推奨量は、以下のようになっています。
年齢 | 男性の推奨量(mg) | 女性の推奨量(mg) |
0~5カ月 | ー | ー |
6~11カ月 | 5.0 | 4.5 |
1~2歳 | 4.0 | 4.5 |
3~5歳 | 5.5 | 5.5 |
6~7歳 | 5.5 | 6.5 |
8~9歳 | 7.0 | 8.0 |
10~11歳 | 10.0 | 9.5 |
12~14歳 | 1.0 | 10.0 |
15~17歳 | 9.5 | 7.0 |
18歳~29歳 | 7.5 | 6.0 |
30~49歳 | 7.5 | 6.5 |
50~69歳 | 7.5 | 6.5 |
70以上 | 7.0 | 6.0 |
出典:厚生労働省【日本人の食事摂取基準2020年版】サイトより引用
ヘム鉄を多く含む食品(1食当たり使用量と含有量)
鉄 : 含有量Top 20
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりmg |
1 | バジル/粉 | 120.0 |
2 | 香辛料類/タイム/粉 | 110.0 |
3 | いも及びでん粉類/<いも類>/こんにゃく/赤こんにゃく | 78.0 |
4 | 藻類/あおのり/素干し | 77.0 |
5 | 魚介類/<魚類>/あゆ/天然/内臓/焼き | 63.0 |
6 | 藻類/かわのり/素干し | 61.0 |
7 | ひじき/ほしひじき/鉄釜/乾 | 58.0 |
8 | 香辛料類/セージ/粉 | 50.0 |
9 | 藻類/いわのり/素干し | 48.0 |
10 | きくらげ/乾 | 35.0 |
11 | あわび/塩辛 | 34.0 |
12 | やつめうなぎ/干しやつめ | 32.0 |
13 | あさり/缶詰/水煮 | 30.0 |
14 | 香辛料類/カレー粉 | 29.0 |
14 | 香辛料類/チリパウダー | 29.0 |
16 | あさり/缶詰/味付け | 28.0 |
17 | あゆ/天然/内臓/生 | 24.0 |
18 | 種実類/けし/乾 | 23.0 |
19 | 香辛料類/パプリカ/粉 | 21.0 |
20 | (緑茶類)/せん茶 | 20.0 |
20 | 香辛料類/こしょう/黒/粉 | 20.0 |
20 | ぶた/スモークレバー | 20.0 |
食品成分データベース サイトより引用
まとめ
1番大切なのは、やはりカラダは酸素でエネルギーをたくさん作り出すという事です。鉄は、その酸素を運ぶ『ヘモグロビン』の一部となって酸素を全身に運んでいます。また、筋肉の中にいて『ミオグロビン』血液からの酸素を受け取ったりもしています。ほかにも、鉄は酵素の一部『チトクローム』としてエネルギー作りに関係したり、薬の代謝に関係したりしています。鉄【ヘム】+ たんぱく質【グロビン】= ヘモグロビンが酸素を全身に運んでくれています。
鉄はこれらの働きで、私たちのカラダを作ったり、リスクから守ったりしているわけです。『カラダは食べたものでできている』ので、下記の表のような症状に心当たりがある方は鉄が不足していたり、これらの栄養素が関連しているかもしれません。
体質や調子によっては、鉄を摂りすぎると過剰症が起こる可能性もあり、特にサプリメントや処方箋で摂取する場合は摂取量や量用、鉄の種類などに注意が必要です。バランスの良い食事を心がけながら摂取することが大切です。
それでも前述で述べたような、気になる不調や症状が改善しない場合は、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。
あなたの鉄の状態は大丈夫でしょうか?以下の項目をぜひチェックしてみてください。
立ちくらみ、めまい、耳鳴りがする | むくみがある | ||
疲れやすい | しっしんができやすい | ||
顔色が悪い | 肩こり、腰痛、背部痛 | ||
風邪にかかりやすい | 便秘や下痢をしやすい | ||
歯茎の出血、体にアザがよくできる | 吐き気がする | ||
頭痛、頭重になりやすい | 胸が痛む | ||
注意力の低下、イライラしやすい | 体を動かすと動悸や息切れがする | ||
のどの不快感 | まぶたのうらが白い | ||
洗髪時、髪の毛が抜けやすい | 皮膚が青白く、または黄色っぽくなる | ||
寝起きが悪い | くしゃみ、鼻水、鼻づまり | ||
食欲不振 | 口角、口唇炎、舌のしびれと赤み | ||
神経過敏 |
【参考引用】オーソモレキュラー 栄養医学研究所
【参考引用】「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
【参考引用】食品成分データベース
【参考引用】NHK出版 健やかな毎日のための栄養大全
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