マグネシウムの重要なはたらきは、他の栄養素と比べてあまり知られていません。しかしマグネシウムはすべての細胞や骨に広く存在していて、300種もの酵素反応に関わっているといわれます。そして、人のカラダは、血液中のマグネシウムが不足すると骨からマグネシウムを取り出して常にマグネシウムの量を一定に保とうとしています。今回は、このマグネシウムについてご紹介いたします。
マグネシウムとは
人のからだの中には、約25gのマグネシウムが存在します。マグネシウムはすべての細胞に広く分布し、50〜60%は骨に、1%は血中に存在します。
マグネシウムは生体内で約50~60%がリン酸塩や炭酸塩として骨に沈着しています。残りの約40%は筋肉や脳、神経に存在します。カリウムに次いで細胞内液に多く存在しますが、細胞外液には1%未満しか存在しません。生体内では、多くの酵素を活性化して生命維持に必要なさまざまな代謝に関与しています。
マグネシウムの吸収
口から入ったマグネシウムの吸収は主に小腸で行われ、腎臓で排泄されます。腸管での吸収はビタミンDによって促進され、過剰のカルシウムやリンによって抑制されます。摂取量が不足すると、腎臓でのマグネシウムの再吸収が促進されたり、骨からマグネシウムが放出されたりすることで、マグネシウムの血中の濃度を一定に保っています。
マグネシウムの働き
マグネシウムは主に補酵素として、または活性中心として300種類以上の酵素の働きを助けていています。エネルギー産生機構に深く関わっており、栄養素の合成・分解過程のほか、遺伝子情報の発現や神経伝達などにも関与しています。
また、カルシウムと拮抗して筋収縮を制御したり、血管を拡張させて血圧を下げたり、血小板の凝集を抑え血栓を作りにくくしたりする作用もあります。
マグネシウムとカルシウム
カルシウムとマグネシウムはブラザーイオンといわれるほど重要な関係を持っています。
人のカラダは、60兆個の細胞からなっています。その一つひとつの細胞の中と外にカルシウムとマグネシウムがきちんとした割合でいてくれることがとても重要になっていると考えられています。このおかげで、血管の緊張性を保つことができたり、心臓がきちんと動いたりできているのです。
また、マグネシウムが足りなくなった場合には、カルシウムの値も一緒に下がってしまうこともいわれています。カルシウムとマグネシウムが一定の比で存在することが、カラダの調子を整えてくれます。
カルシウムを摂るときはマグネシウムも一緒に摂取されることが望ましいです。摂取するときの比率は、カルシウム:マグネシウム=2:1とする文献が多いです。しかし最近では、その比率は1:1がいいのではないかという意見もあります。
骨の健康とマグネシウム
骨の健康を保つのに、マグネシウムが必要不可欠です。
骨はミネラルと骨気質でできています。このミネラルは主にカルシウムとリン酸のヒドロキシアパタイトでできています。この中にカルシウムの1/100くらいのマグネシウムが入っていて、骨の強さを保つのに役立っていると考えられています。
骨にはミネラルのほかに繊維みたいなものがはしっていて、これを「骨気質」といいます。骨気質は主にコラーゲン(たんぱく質)でできています。
マグネシウムの1日の摂取基準量
日本人の食事摂取基準(2020年版)では、1日のマグネシウムの推奨量を18~29歳男性では340mg、30~64歳男性では370mg、65~74歳男性では350mg、75歳以上の男性では320mgで、18~29歳女性では270mg、30~64歳女性では290mg、65~74歳女性では280mg、75歳以上の女性では260mgと設定しています(表1-1、1-2)。
通常の食事による過剰障害は報告されていないため、一般的な耐容上限量は設定されていませんが、サプリメントなどの通常の食品以外からの摂取量を成人で1日に350mg(小児の場合は体重1kgあたり5mg)と制限しています(表1-1、1-2)。
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量a |
---|---|---|---|---|
0~5(月) | - | - | 20 | - |
6~11(月) | - | - | 60 | - |
1~2(歳) | 60 | 70 | - | - |
3~5(歳) | 80 | 100 | - | - |
6~7(歳) | 110 | 130 | - | - |
8~9(歳) | 140 | 170 | - | - |
10~11(歳) | 180 | 210 | - | - |
12~14(歳) | 250 | 290 | - | - |
15~17(歳) | 300 | 360 | - | - |
18~29(歳) | 280 | 340 | - | - |
30~49(歳) | 310 | 370 | - | - |
50~64(歳) | 310 | 370 | - | - |
65~74(歳) | 290 | 350 | - | - |
75以上(歳) | 270 | 320 | - | - |
年齢等 | 推定平均必要量 | 推奨量 | 目安量 | 耐容上限量a |
---|---|---|---|---|
0~5(月) | - | - | 20 | - |
6~11(月) | - | - | 60 | - |
1~2(歳) | 60 | 70 | - | - |
3~5(歳) | 80 | 100 | - | - |
6~7(歳) | 110 | 130 | - | - |
8~9(歳) | 140 | 160 | - | - |
10~11(歳) | 180 | 220 | - | - |
12~14(歳) | 240 | 290 | - | - |
15~17(歳) | 260 | 310 | - | - |
18~29(歳) | 230 | 270 | - | - |
30~49(歳) | 240 | 290 | - | - |
50~64(歳) | 240 | 290 | - | - |
65~74(歳) | 230 | 280 | - | - |
75以上(歳) | 220 | 260 | - | - |
妊婦(付加量) | +30 | +40 | - | - |
授乳婦(付加量) | +0 | +0 | - | - |
*通常の食品以外からの摂取量の耐容上限量は成人の場合350mg/日、小児では5mg/kg体重/日とする。それ以外の通常の食品からの摂取の場合、耐用上限量は設定しない。
- 推定平均必要量:半数の人が必要量を満たす量。
- 推奨量:ほとんどの人が必要量を満たす量。
- 目安量:一定の栄養状態を維持するのに十分な量であり、目安量以上を摂取している場合は不足のリスクはほとんどない。
- 耐容上限量:過剰摂取による健康障害を未然に防ぐ量。
令和元年国民健康・栄養調査におけるマグネシウムの1日の摂取量の平均は247.1mgで、推奨量と比較すると、不足気味です。食品群別の摂取量を見ると、穀類からの摂取量が最も多く、次いで豆類、野菜類、調味料・香辛料、魚介類の順に多く摂取されています。
マグネシウムを多く含む食品
マグネシウムは、藻類、魚介類、穀類、野菜類、豆類などに多く含まれています
マグネシウム:含有量 TOP10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりmg |
1 | 藻類/あおさ/素干し | 3200 |
2 | 藻類/あおのり/素干し | 1400 |
3 | 藻類/てんぐさ/素干し | 1100 |
4 | 藻類/わかめ/乾燥わかめ/素干し | 1000 |
5 | 藻類/ひとえぐさ/素干し | 880 |
6 | 穀類/こめ/米ぬか | 850 |
7 | 調味料及び香辛料類/バジル/粉 | 760 |
8 | 藻類/ふのり/素干し | 730 |
9 | 藻類/(こんぶ類)/刻み昆布 | 720 |
10 | 藻類/まつも/素干し | 700 |
10 | 藻類/(こんぶ類)/ながこんぶ/素干し | 700 |
指定した成分量の同値があるため、指定した数より多くの食品を表示しています
マグネシウムが不足するとどうなるか
マグネシウムが不足した場合には、不整脈が生じやすくなり、慢性的に不足すると虚血性心疾患、動脈硬化症などのリスクが高まります。また、吐き気、精神障害などの症状が現れたり、こむらがえりなどの筋肉の痙攣(テタニー)を起こしやすくなったりします。さらに、近年、長期的なマグネシウムの不足が、骨粗鬆症、心疾患、糖尿病、高血圧などの生活習慣病のリスクを高める可能性が示唆されており、今後さらに研究が進められることが期待されます。
マグネシウムの過剰摂取の影響
マグネシウムを摂り過ぎた場合は、過剰分は尿中に排泄されるので通常の食事では過剰症になることはありません。しかし、腎機能が低下している場合には高マグネシウム血症が生じやすくなり、血圧低下、吐き気、心電図異常などの症状が現れます。
また、ダイエットや便秘などに効果があるといって摂取されている「にがり」(塩化マグネシウム)やサプリメントなど、通常の食事以外でマグネシウムを過剰に摂取すると、下痢を起こすことがあります。
マグネシウムのサプリメントなどを過剰摂取した場合は、腸からの吸収が抑えられ下痢や軟便になりますが、この作用を活かして便秘に対する医薬品として用いられることも珍しくありません。 もし、マグネシウムが体内に過剰に吸収された場合でも、尿と一緒に排泄されるので下痢・軟便以外の症状が起こることはほぼないでしょう。
まとめ
マグネシウムは、栄養素の合成・分解過程のほか、遺伝子情報の発現や神経伝達などにも関与しています。また、カルシウムと協力して骨の強さを保つのに役立っている反面、カルシウムと拮抗して筋収縮を制御したり、血管を拡張させて血圧を下げたり、血小板の凝集を抑え血栓を作りにくくしたりする作用があり、その働きはカラダにとってとても重要と言えます。
例えば、繰り返し『よく足をつってしまう場合(こむら返り)』なども筋肉を収縮させる作用のあるカルシウムとの比率が崩れている可能性も考えなくてはなりません。つまりカルシウムは、私たちの身近にある牛乳などの乳製品から多く摂取できていても、マグネシウムが不足して比率が崩れてしまうと『こむら返り』などの過剰な筋肉の収縮作用が引き起こりやすいということです。
過去に、そのミネラルの含有量の多さからギネス認定されたこともある『ぬちまーす』や『雪塩』などの沖縄の海水から作られた、天然塩の商品にはミネラルが豊富です。その中でも、マグネシウムの含有量は群を抜いてとても豊富に含まれています。100gあたりに含まれる含有量では、ぬちまーすには3360mg、雪塩には3310mgです。一般的な食塩では18mg程なので比較すると一目瞭然です。最近では、スーパーでも簡単に購入することができるので、私たちの生活にとても身近になりました。
マグネシウムはこれらの働きで、私たちのカラダを作ったり、リスクから守ったりしているわけです。『カラダは食べたものでできている』ので、筋肉のコリ(緊張)が強い方やよくこむら返りをしてしまう方はこれらの栄養素が関連しているかもしれません。
体質や調子によっては、マグネシウムを摂りすぎると過剰症が起こる可能性もあり、特にサプリメントで摂取する場合は成分や摂取量、マグネシウムの種類などに注意が必要です。バランスの良い食事を心がけながら摂取することが大切です。
それでも前述で述べたような、気になる不調や症状が改善しない場合は、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。
【参考引用】オーソモレキュラー 栄養医学研究所
【参考引用】「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
【参考引用】「令和元年 国民健康・栄養調査報告」
【参考引用】食品成分データベース
【参考引用】NHK出版 健やかな毎日のための栄養大全