ビタミンB12は、しじみや牡蠣、アンコウの肝、レバーなど動物性の食品に多く含まれます。『赤いビタミン』、『神経のビタミン』、『抗貧血ビタミン』などと呼ばれています。ビタミンB12は、1948年に肝臓から単離・結晶化されました。その結晶は暗赤色でした。コバルトという金属を含んでいることが特徴で『シアノコバラミン』とも呼ばれます。今回は、ビタミンB12についてご紹介いたします。
ビタミンB12とは
今ではビタミンB12にさまざまな働きがあることがわかっていますが、ビタミンB12が発見された当初は、まず最初に貧血との関連が着目されました。
19世紀初頭に欧州では、原因不明の重度な貧血のために亡くなる人が多かったそうです。しかし、動物の肝臓(レバー)を食べる習慣のある人は、病状が進行しないということがわかりました。この情報をヒントにして、肝臓の抽出液が貧血の治療に用いられるようになりました。20世紀中期頃に、その有効成分から単独の『ビタミンB12』という成分名ができ、化学名としては『シアノコバラミン』と名づけられたという歴史があります。
ビタミンB12の働きについて
ビタミンB12はその他のビタミンB群と一緒に酵素をサポートする補酵素として、アミノ酸代謝、DNAやRNAの核酸の代謝や葉酸の代謝に関わっています。さらに正常な赤血球の産生、他にも脳神経および血液細胞など、多数の体内組織の機能や発達を正常に維持するために必要な栄養素です。
ビタミンB12と貧血
貧血とは、赤血球の数が少ないことや赤血球の中のヘモグロビン(たんぱく質と鉄)が不足している状態のことです。ビタミンB12不足による貧血は、赤血球を作る細胞の核酸の合成がスムーズにいかなくなって、血液成分に異常が生じます。不足すると悪性貧血(巨赤芽球貧血)を発症する場合があります。
ヘモグロビンは血色素ともいわれ赤色をしています。血液中の酸素を全身に運搬しているヘム鉄を含むたんぱく質のことです。
DNA遺伝子情報に基づきその、たんぱく質の合成に関与するRNAは総称して核酸と呼びます。この核酸の合成には、ビタミンB12と葉酸が共同して働くため必要不可欠となります。
ビタミンB12と神経の働きを正常に保つ
神経は全身に広がっていて、体の隅々からの感覚的な情報を脳に伝えたり、反対に脳からの指令を体の隅々に伝えたりして運動や動作が起こります。神経には、神経細胞の軸索を取り囲んでいる髄鞘(ミエリン)と呼ばれる脂質の層があります。この髄鞘が障害されると、情報伝達がスムーズにいかなくなります。
手足のしびれなどの自覚症状もその一つです。本来は何かに触れたときに、その刺激を脳へ伝えるための神経が、神経系の障害によって何も触れていないのに信号を発生してしまい、手足がしびれたりすると考えられています。また、眼精疲労や肩こり、腰痛などにも、ビタミン12不足による神経系の障害が関係していることがあります。
ビタミンB12は、髄鞘のリン脂質の組成を適正に維持する物質の供給をスムーズにすることや、髄鞘の絶縁性を維持するために、神経周辺の不要な脂肪酸の除去をスムーズにすることに関わっていると考えられています。そのため、ビタミンB12は神経の働きを保つのに重要であり、「神経のビタミン」とも呼ばれています。神経障害との病因は未だ未解明なことが多く残っています。
また、ビタミンB12以外のビタミンB群、ビタミンEなども、神経の働きに欠かせない微量栄養素です。
ビタミンB12の摂取基準
日本人の食事摂取基準(2023年版)では、ビタミンB12の1日あたりの摂取の推奨量は18歳以上の男女とも2.4㎍です
ビタミンB12の吸収は胃から分泌される内因子によって調節されているので、食品から過剰に摂取しても、余剰分は吸収されません。よって耐容上限量は設定されていません。
【男性の基準値】
年齢等 | 推定平均必要量 (㎍) | 推奨量 (㎍) |
---|---|---|
0~5(月) | - | - |
6~11(月) | - | - |
1~2(歳) | 0.8 | 0.9 |
3~5(歳) | 0.9 | 1.1 |
6~7(歳) | 1.1 | 1.3 |
8~9(歳) | 1.3 | 1.6 |
10~11(歳) | 1.6 | 1.9 |
12~14(歳) | 2.0 | 2.4 |
15~17(歳) | 2.0 | 2.4 |
18~29(歳) | 2.0 | 2.4 |
30~49(歳) | 2.0 | 2.4 |
50~64(歳) | 2.0 | 2.4 |
65~74(歳) | 2.0 | 2.4 |
75以上(歳) | 2.0 | 2.4 |
【女性の基準値】
年齢等 | 推定平均必要量 (㎍) | 推奨量 (㎍) |
---|---|---|
0~5(月) | - | - |
6~11(月) | - | - |
1~2(歳) | 0.8 | 0.9 |
3~5(歳) | 0.9 | 1.1 |
6~7(歳) | 1.1 | 1.3 |
8~9(歳) | 1.3 | 1.6 |
10~11(歳) | 1.6 | 1.9 |
12~14(歳) | 2.0 | 2.4 |
15~17(歳) | 2.0 | 2.4 |
18~29(歳) | 2.0 | 2.4 |
30~49(歳) | 2.0 | 2.4 |
50~64(歳) | 2.0 | 2.4 |
65~74(歳) | 2.0 | 2.4 |
75以上(歳) | 2.0 | 2.4 |
妊婦(付加量) | +0.3 | +0.4 |
授乳婦(付加量) | +0.7 | +0.8 |
シアノコバラミン(分子量=1,355.37)の重量として示した。
- 推定平均必要量:半数の人が必要量を満たす量。
- 推奨量:ほとんどの人が必要量を満たす量。
- 摂取基準量の単位㎍は100万分の1グラムを表します。
令和元年国民健康・栄養調査結果における日本人の一般食品からのビタミンB12の1日の摂取量の平均は6.3㎍です。食品群別の摂取量を見ると、魚介類からの摂取量が最も多く、次いで肉類、乳類と卵類の順に摂取されています。
【参考引用】日本食品標準成分表(八訂)増補2023年 厚生労働省
【参考引用】令和元年の国民健康・栄養調査
ビタミンB12を多く含む食品
ビタミンB6は、野菜類、穀類、魚介類、種実類などに多く含まれています。食事以外では腸内細菌によって合成され、供給されています。
ビタミンB12 : 含有量Top 10
順位 | 食品名 | 成分量 100gあたりμg |
1 | 魚介類/しろさけ(めふん) | 330.0 |
2 | 魚介類/しじみ(水煮) | 82.0 |
3 | 藻類/いわのり(素干し) | 69.4 |
4 | 魚介類/しじみ(生) | 68.0 |
5 | あまのり/味付けのり | 67.9 |
6 | 魚介類/かたくちいわし(田作り) | 65.0 |
7 | 魚介類/あさり/(水煮の缶詰) | 64.0 |
8 | 魚介類/あゆ/内臓(生) | 60.0 |
9 | 魚介類/あげまき(生) | 59.0 |
9 | 魚介類/あかがい(生) | 59.0 |
成分量の単位 μg は100万分の1グラムを表します
【参考引用】食品データベース 文部科学省
オーソモレキュラー医学会が発表するビタミンB12について
オーソモレキュラー医学会が発表するビタミンB12についてとても興味深い研究結果を記事としておりましたので参考とさせて頂き、ご紹介いたします。
デイビッド・スミス博士は、小児の発達にとってビタミンB12が非常に重要な役割を担っていることを小児医学研究の専門誌である『Pediatric Research』に投稿しています。
2022年に分子栄養学と言われる分野の最高峰、国際オーソモレキュラー医学会の名誉の殿堂入りを果たしているお方だそうです。
(写真)オックスフォード大学薬学部の名誉教授 デイビッド・スミス博士
5歳児の身長は「妊娠時の母親の血漿ビタミンB12レベル」と関連している!?
栄養による発育阻害は様々な要因によって起きますが、母親への栄養の介入によって改善できる要素もあります。なかでも、乳児が母乳で育てられている時の微量栄養素であるビタミンB12のレベルが数年後の子どもの身長に関連することが注目されています。
ネパールでの研究
ネパールの女性と子どもに関する研究では、母乳で育てられている乳児が出生後7ヶ月目に、母親と乳児から採血をし、血液の成分データを採取しました。この研究では、この時の母親と乳児のそれぞれの血漿総ビタミンB12の値と、母乳育児中の母親のビタミンB12摂取量は、その後の子どもが5歳になった時の身長に関係している事が分かったそうです。
この時、母体のビタミンB12平均摂取量は0.8μgで、米国栄養摂取推奨量の2.6μgをはるかに下回っていました。一方、母体の血漿ビタミンB12濃度が欠乏症と定義される148pmol/L以下であったのは5%だけでした。
驚くべきことに、母体の血漿ビタミンB12濃度は5歳になった時の子どもの身長と正の相関を示していた事がその研究で発表されました。
計算上では、母体のビタミンB12摂取量が1μg増加する毎に、子どもの身長が1.7cm増加したという研究結果が出ました。
妊婦のビタミンB12欠乏は健康上のリスクを高める可能性も
コホート研究による分析
11編成のグループを追跡して、病気の発生などの健康状態の変化を調べる研究【コホート研究】によれば、ビタミンB12欠乏は妊娠前期の21%、中期の19%、後期の29%に認められました。こちらの研究でも、ビタミンB12欠乏状態は、妊婦の健康に害を及ぼす可能性があるというエビデンスが示されています。
例えば、ビタミンB12の欠乏は低中所得国や菜食主義者の割合が高い国においても、高所得国においても妊娠中の糖尿病・肥満・貧血のリスクを高める要因になります。
また、妊娠中のビタミンB12欠乏は早産のリスクを高める可能性があります。さらにビタミンB12は他の栄養素と相互作用するため、ビタミンB12が低値で葉酸が高値の場合はこれらのリスクを高めます。
- 妊娠中の糖尿病
- 低出生体重児
- インシュリン抵抗性
- さらには6歳児における肥満
ビタミンB12と葉酸はセットで摂取した方が断然良さそうです。
母体中のビタミンB12・葉酸レベルと子どもの神経管閉鎖障害
母体中のビタミンB12の状態は、妊娠中における胎児のビタミンB12の重要な決定因子となります。また、出生後に母乳で育てられていない乳児と比較し、母乳で育てられた乳児のビタミンB12は著しく低値だったようです。
ビタミンB12の低下状態は、母乳とミルクを合わせて育てられている乳児の場合も発生するといわれています。ここで一番重要な問題は、母乳育児で育てられている乳児のビタミンB12低下状態が母乳の低いビタミンB12含有量によるものなのか、はたまた母乳自体が乳児のビタミンB12低下を引き起こすのかということです。
母親のビタミンB12の低下は、子どものいくつかの障害に関連することがわかっています。例えば、神経管閉鎖障害は葉酸欠乏によって引き起こされることが知られています。
母親が正常値範囲でビタミンB12低値の場合、神経管閉鎖障害のリスク増加はほとんど生じません。ところが、葉酸を強化してもビタミンB12が低値だと「神経管閉鎖障害のリスクが高まる」と指摘されています。
実際に、インドでは神経管欠陥の有病率が非常に高くなっており(4.5/1000出生)、こうしたケースでは葉酸の状態こそ良好である場合が多いものの、ビタミンB12の状態が非常に悪かったという事がわかっています。そして胎児に起こる脳や脊髄の先天異常。妊娠初期に生じる可能性が高いそうです。
妊娠時のビタミンB12レベルと、子どもの認知機能障害・発達障害における相関
ある研究において「母親の妊娠中のビタミンB12が低かった9歳児は、同時期にビタミンB12が良好な母親の子どもよりも認知検査の成績が低かった」という報告もされています。高所得国および低所得国双方の調査によると、母乳で育てられた乳児のビタミンB12欠乏による深刻な症状として、以下の症状が報告されています。
母乳で育てられた乳児のビタミンB12欠乏による症状など
- 筋緊張低下
- 過敏性(いらつき)
- 発達遅延
- てんかん
- 運動障害
- 脳萎縮 など
このような子どもに対しては、できるだけ早い段階で治療を開始することが重要になります。これらの症状の多くは、ビタミンB12の投与によって脳萎縮なども回復が期待されるそうですが、長期的な認知障害が遷延する可能性もあるそうです。
いくつかの観察研究で「母親と乳児のビタミンB12の状態は、将来の子どもの発達にとって重要である」との見解を報告しています。妊娠28週目の母親の血漿ビタミンB12濃度は、生まれた子どもが2歳になった時の精神的・社会的発達の指数と深い関連を示しているとういう研究結果もあるそうです。
北インドの研究
北インドの12〜18ヶ月の子どもは、4ヶ月前に測定された血漿ビタミンB12レベルが高くなるほど、精神発達指数スコアのより良い増加を示すことがわかりました。
ネパールの研究
また、ネパールにおいて7か月の乳児における血漿ビタミンB12値は、子どもが5歳に成長した際の視覚空間能力と社会的認識と有意に関連を示していました。
子供においても発育に関連がある
それぞれの著者は、「低用量でのビタミンB12の長期補給について、血漿ビタミンB12レベルが低い子どもの成長率・運動能力、そして問題解決スキルの向上に有益な可能性がある」と述べています。
妊娠・授乳中は十分なビタミンB12の補給を
オーソモレキュラー医学会の観点からビタミンB12について大切なことが記載されています。
1つ目は、ビタミンB12は母親と子どものどちらにとっても重要な栄養素であり、望ましいレベルは従来の基準値をはるかに上回っていることを理解する必要があります。『血漿または血清ビタミンB12濃度を300pmol/L以上』にすることです。
2つ目に、血漿または血清ビタミンB12濃度が低い妊娠中あるいは授乳中の女性は、経口サプリメントでビタミンB12を補給することを検討してください。
インドでの研究
インドの研究では、妊娠14週目から出産後6週目まで活性型ビタミンB12(メチコバラミン)、(病院で処方されるメコバラミンやメチコバールもよく耳にするお薬ですが活性型ビタミンB12です。)を毎日50μg経口投与することにより、母体および乳児の血漿ビタミンB12レベルの増加と母乳レベルが増加することが明らかになっています。
現在までの最新知識に基づいて、活性型のビタミンB12の投与は母子双方にとって有益であると考えられます。
【参考引用】日本オーソモレキュラー医学会(JSOM)
まとめ
ビタミンB12は、その他のビタミンB群と一緒に酵素をサポートする補酵素として、アミノ酸代謝、DNAやRNAの核酸の代謝や葉酸の代謝に関わっています。さらに正常な赤血球の産生、他にも脳神経および血液細胞など、多数の体内組織の機能や発達を正常に維持するために必要な栄養素です。
ビタミンB12はこれらの働きで、私たちのカラダを作ったり、リスクから守ったりしているわけです。『カラダは食べたものでできている。』ので、なかなか治らない神経痛や慢性痛などで、お困りの方もこれらの栄養素が関連しているかもしれません。
日本人の食事摂取基準(2023年版)では、ビタミンB12の1日あたりの摂取の推奨量は18歳以上の男女とも2.4㎍です。
オーソモレキュラー医学会のインドでの研究では、毎日50μg経口投与することにより、母体および乳児の血漿ビタミンB12レベルの増加と母乳レベルが増加することが明らかになっています。
このように、たとえ日本人の1日あたりの摂取量の基準値を満たしていても、体質や環境によってはリスクや不調が引き起こされる可能性があります。どの栄養素もこのような事を理解していかなくてはなりません。
それでも前述で述べたような、気になる不調や症状が改善しない場合は、早めに医療機関で医師の診察を受けるようにしてください。
【参考引用】NHK出版 健やかな毎日のための栄養大全